「地球沸騰化」の時代、個人で行動を起こしている人が約75% 「再エネへの切り替え」「環境団体への寄付」など、より積極的な行動は約23%
公益財団法人旭硝子財団(理事長 島村琢哉、所在地 東京都千代田区)は、全国各地10~60代の男女1,092名 (Z世代:18~24歳 522名、大人世代:25~69歳 570名)に対し、環境問題への危機意識および行動について把握するため、「第5回 生活者の環境危機意識調査」を実施しました。本調査は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科蟹江かにえ憲史のりちか教授監修のもと、インターネットにて実施しました。
主な調査結果は以下のとおりです。
◆国内の環境問題で危機的だと思う項目1位は5年連続で「気候変動」、線状降水帯の発生・長期化する猛暑・食糧難を懸念。2位「人口」、3位「社会、経済と環境、政策、施策」。
◆「気候変動」と並び大きな課題となっている「生物多様性の損失」について、全国平均で47.7%が「身の回りで感じる」。大人世代の方がZ世代より関心がやや高い。
◆環境危機時計(R)(環境危機意識を時刻(0:01~12:00の範囲)に例えたもの)は、「6時59分」と「かなり不安」を感じている。世代別では、Z世代「6時43分」、大人世代「7時13分」と大人世代の方が危機意識は高い。
日本の有識者の回答「9時37分」の「極めて不安」とは2時間強の差はあるが、いずれも危機意識は高い。
◆「地球沸騰化の時代」に対し、個人で何かしらの行動を起こしている人は全国平均で74.5%。取り組んでいる行動1位「エコな交通手段を利用」、2位「地元産や季節性ある食物を選択」、3位「家電や衣類などをリサイクル」など普段の生活でできるアクションが多い傾向に。「再エネへ切り替え」「環境団体へ寄付」などより積極的に行動している人は22.5%に。
◆2023年時点の感覚的なSDGs達成度は、全国平均24.7%。Z世代30.5%で、大人世代23.8%よりやや高い。
◆2030年に達成度が高いと思うSDGsの目標は、1位「飢餓をゼロに」、2位「安全な水とトイレを世界中に」、3位「貧困をなくそう」。達成度が低いと思う目標は、1位「貧困をなくそう」、2位「ジェンダー平等を実現しよう」、3位「働きがいも経済成長も」。Z世代の1位は昨年に引き続き「ジェンダー平等を実現しよう」で、ジェンダー平等の達成には悲観的な傾向に。
※本リリースは当財団ウェブサイト(https://www.af-info.or.jp)でもご覧いただけます。
<調査概要>
・調査目的 :日本国内の一般生活者の環境問題に対する意識や行動の実態を把握する
・調査対象 :1,092名 (18~24歳 522名、25~69歳 570名)
・調査地域 :全国
・調査方法 :インターネットリサーチ
・調査時期 :2024年6月26日(水)~6月28日(金)
・有効回答数:1,092サンプル
・調査主体 :公益財団法人 旭硝子財団
※Q1,Q3,Q5,Q6の設問については、旭硝子財団が実施している世界の環境問題に携わる
有識者を対象とした「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2024年の調査を、
一般生活者向けに簡易化して調査した内容です。
※各設問における全国平均の結果は、年齢構成を日本の人口構成に合わせて推算したものです。
※「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」は、1992年から毎年実施しており、
旭硝子財団保有データベースに基づき、世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、
企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者に、地球環境に関する現状認識を
問うものです。有識者が人類存続に対して抱く危機感を時計の針で表示する「環境危機時計(R)」を
独自に設定し、毎年アンケート調査をしています。
<調査詳細>
◆国内の環境問題で危機的だと思う項目1位は5年連続で「気候変動」、線状降水帯の発生・長期化する猛暑・食糧難を懸念。2位「人口」、3位「社会、経済と環境、政策、施策」。
Q1.あなたが日本国内における環境問題を考える上で、以下の表より危機的な状態にあると考える項目を3つ選んで、1位~3位の順位付けをしてください。また、その理由を具体的に記載ください。
※項目は、有識者を対象とした「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」と同内容のものを使用しています
・ 日本国内における環境問題において、危機的な状態にあると考える項目として最も多かったのは、1位「気候変動」(45.5%)で、2020年から毎年実施している本調査において、5年連続で1位となりました。その理由として、線状降水帯などの豪雨や長期化する猛暑、それによる農作物への影響で食糧難を懸念する回答が寄せられました。
・ 続いて、2位「人口」(13.3%)、3位「社会、経済と環境、政策、施策」(11.4%)の順となりました。
「人口」については、2020年の同調査では6.9%でしたが、年々関心が寄せられ今年は6.4ポイント高い結果となりました。日本国内の急激な出生率低下による人口減少に、懸念の声があがりました。
・ Z世代・大人世代ともに上位3位は同じ結果となり、世代を超えて「気候変動」に危機感を抱いていることがわかりました。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果でも、環境問題を考える上で最も多く選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、「気候変動」でした。
・ 上位3位の項目を選んだ主な理由は、以下の通りです。(※一部抜粋)
<気候変動>
「年々最高気温が上がっていて過去には地球温暖化と言われていた気候変動が地球沸騰化まで呼ばれるようになり、これからの地球の未来が不安」
「子供の頃と比べると雨の降り方も異常だし、線状降水帯なんて発生しなかった。夏も最近は5月から10月ぐらいまで、30度超えがふつうに多々あって、過ごしやすい季節が無くなった気がする」
「年々気温が上昇していたり、雨の降り方も以前とは違ってしまっていることを見て、このままでは雨だけの問題ではなく、食糧問題も深刻になってしまうと思う」
<人口>
「大都市を除くどの地域においても、人口減少が問題になっているから。また、少子高齢化社会に突入してから出生数が年々減少しており危機的状況であると感じている」
「年金を支払う年齢になり、数少ない若い世代で多くの高齢者を支えていることを実感した」
「少子高齢化が進み移民は増え、治安は悪化、税負担は重くなる、過疎化が進展など授業で習った」
<社会、経済と環境、政策、施策>
「気候変動は重大な危機であるけれど、それを引き起こしているのは人間の活動によるものなので、人間の力で何とか改善の余地・方法のあるものがまだまだ進んでいない危機感の方が大きい」
「物価高で価格高騰のわりに給料はあまり上がらず、社会が上手く循環していない気がする」
「給料が上がらず物価のみ上がり社会福祉は制度疲労を起こしており、政治が全く機能していない」
◆「気候変動」と並び大きな課題となっている「生物多様性の損失」について、全国平均で47.7%が「身の回りで感じる」。大人世代の方がZ世代より関心がやや高い。
Q2.「気候変動」と並び「生物多様性の損失」(※)も大きな課題となっています。生物多様性が失われつつあることを、あなたの身の回りで感じることはありますか。
※「生物多様性の損失」とは絶滅危惧の生物種の増加、森林伐採などの生息地の消失のことを意味し、
結果として自然が人間にもたらす恩恵の多くを失うことになります
・ 生物多様性が失われつつあることを身の回りで「よく感じる」8.4%、「感じることがある」39.3%を合わせて47.7%、全国の約半数が損失を感じている傾向がみられました。
・ 世代別では、Z世代が「よく感じる」9.0%、「感じることがある」33.1%を合わせて42.1%、大人世代が「よく感じる」7.7%、「感じることがある」40.2%を合わせて47.9%と、大人世代の方が5.8ポイント高い結果となりました。
◆環境危機時計(R)(環境危機意識を時刻(0:01~12:00の範囲)に例えたもの)は、「6時59分」と「かなり不安」を感じている。世代別では、Z世代「6時43分」、大人世代「7時13分」と大人世代の方が危機意識は高い。
日本の有識者の回答「9時37分」の「極めて不安」とは2時間強の差はあるが、いずれも危機意識は高い。
Q3.以下の図は、環境問題の意識を時計の針に例えた「環境危機時計(R)」とよばれるものです。あなたの国や地域における環境問題への危機意識を時計の針に例えて0:01 ~ 12:00の範囲で○○時○○分と答えてください。(※時刻は便宜上、10分単位で記入)
・ 環境問題への危機意識を時刻に例えると、全国平均で「6時59分」となり、「かなり不安」という結果になりました。世代別では、Z世代は「6時43分」、大人世代は「7時13分」で大人世代の方がより危機を感じているものの、いずれも「かなり不安」という結果でした。
・ 過去の同調査では、全国平均で2020年「6時30分」、2021年「6時21分」、2022年「7時1分」、2023年「6時26分」と、年によって多少の差はあるものの継続して危機感を抱いている傾向が見られました。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年の日本の環境危機時計(R)の時刻は、「9時37分」で「極めて不安」と回答しており、一般生活者との意識には、2時間強程度の差があることがわかりました。
・ 不安に感じる主な理由として、国内外での異常気象についての回答が多く寄せられました。
その理由は、以下の通りです。(※一部抜粋)
「地球温暖化に伴い『これまでにない』という用語を毎年聞くことになった」
「世界規模で様々な環境危機が問題になっており、その対策については国内でもほとんど進んでいないように感じられる」
「近年の夏は暑すぎて子どもたちが外で遊んだり、部屋にいたとしても暑くて熱中症になりかねない状況だと思うから」
◆「地球沸騰化の時代」に対し、個人で何かしらの行動を起こしている人は全国平均で74.5%。取り組んでいる行動1位「エコな交通手段を利用」、2位「地元産や季節性ある食物を選択」、3位「家電や衣類などをリサイクル」など普段の生活でできるアクションが多い傾向に。「再エネへ切り替え」「環境団体へ寄付」などより積極的に行動している人は22.5%に。
Q4. 2023年7月、「地球温暖化」という言葉では表現しきれないほどの猛暑が世界各地で発生し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。これに関し
個人でできることとして、普段あなたが取り組んでいる行動で当てはまるものをお答えください。(複数回答)
・ 地球沸騰化の時代に対し、普段個人で何かしらの行動を起こしている人(「何も行っていない」と答えた25.5%以外の人)は、全国平均で74.5%でした。
・ 最も多く取り組まれていたのは、「公共交通機関や自転車、徒歩など、エコな交通手段を利用する」36.2%、次いで「食物のローカル消費を心がけ、季節の野菜や果物を選ぶ」27.9%でした。
・ より積極的な行動と考えられる「太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに切り替える」「ビーチクリーン活動や、植樹活動など環境保全の活動に参加する」などの取り組みについて、そのうち一つでも選択した人は22.5%でした。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果でも上記の取り組みをあげている人が多く見られました。
・ 一方で「何も行っていない」25.5%となり、Q1の「環境問題で危機的に感じることはない」9.9%と比較すると、環境問題への危機意識はあっても実際の行動に移せていない人が15.6%いることがわかりました。
◆2023年時点の感覚的なSDGs達成度は、全国平均24.7%。Z世代30.5%で、大人世代23.8%よりやや高い。
Q5. 2030年までの目標に向けて、17あるSDGsが、全体として2023年時点でどの程度達成できていると思いますか。全目標達成を100%として、1~100の数字でお答えください。
目標に向かっていると思わない場合は「0」を入力してください。
※SDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です
・ 2023年時点での感覚的なSDGs達成度について、全国平均で24.7%という結果となりました。
・ 一方、達成度0%と回答したのは14.7%と、1割強から厳しい評価がみられました。
・ 世代別では、Z世代の平均は30.5%、大人世代の平均は23.8%と、Z世代の方が6.7ポイント高い結果となりました。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果でも、若い世代のほうが感覚的な達成度が高い傾向は同様でしたが、世界平均31.0%と日本の全国平均24.7%より高い結果でした。
◆2030年に達成度が高いと思うSDGsの目標は、1位「飢餓をゼロに」、2位「安全な水とトイレを世界中に」、3位「貧困をなくそう」。達成度が低いと思う目標は、1位「貧困をなくそう」、2位「ジェンダー平等を実現しよう」、3位「働きがいも経済成長も」。Z世代の1位は昨年に引き続き「ジェンダー平等を実現しよう」で、ジェンダー平等の達成には悲観的な傾向に。
Q6.あなたの国や地域において、17あるSDGsの目標の中で2030年に達成度が高い(あるいは低い)と思うものを3つ選んで高い(あるいは低い)ものから順に1位~3位の順位付けをし、目標の番号でお答えください。
・ SDGsの目標のうち2030年において達成度が高いと思うものは、1位「飢餓をゼロに」、2位「安全な水とトイレを世界中に」、3位「貧困をなくそう」となりました。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果では、自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思うものの1位は、「産業と技術革新の基盤をつくろう」でした。
・ 全国平均で「いずれも達成度は0に近いと思う」が26.7%と、達成に対し厳しい意見もみられました。
・ SDGsの目標のうち2030年において達成度が低いと思うものは、1位「貧困をなくそう」、2位「ジェンダー平等を実現しよう」、3位「働きがいも経済成長も」となりました。
・ 有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果では、自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思うものの1位は、「貧困をなくそう」でした。
・ Z世代・大人世代ともに、順序の差はあるものの上位3位は同じ項目となりましたが、Z世代の1位が昨年に引き続き「ジェンダー平等を実現しよう」となり、昨今社会課題となっている性差別に対して問題解決を悲観している傾向がみられました。
<本調査に対する監修者の見解>
年々厳しさが増す酷暑。今年の酷暑も「地球沸騰化」を身近に感じさせるひどいものだった。今回の調査結果もまた、まだまだ遠い出来事だと思われていた気候変動の影響が、身近になってしまっていることを実感させるものとなった。多くの人にとって、気候変動の影響、とりわけ線状降水帯の発生や長期化する猛暑や食糧難が何よりも懸念されている。そしてこれに対して4人に3人程度が、身近に出来る何らかの行動を起こし始めている。
そのこと自体は前向きにとらえるべきことだ。しかし、より踏み込んだ、システム全体の転換が求められる今、4人に1人程度にとどまる積極的行動に移す人々を増やすこと、そしてそのために、政策や企業の変化を加速することが重要だ。昨年まとめて国連から公表したGSDR2023でも、変革を加速しない限り、2030年までの持続可能な世界の実現は不可能だという結論に達した。
今回の調査では、「飢餓をゼロ」にというSDGsの目標2や、「貧困をなくそう」という目標1について、その達成度は2030年までに高くなっているという意識が見られた。ところが実際には、これらの目標こそ、コロナ禍や気候危機、そして戦争の影響などによって、達成度は後退しているのが現実である。こうした課題については、「他国のことだ」という意識がどこかにあるのではないだろうか?
しかし、世界の課題はつながっている。気候変動の影響で農産物や海産物の収穫に影響が出ることで、飢餓にあえぐ人々に食料がいきわたらなかったり、貧しい人々の収入が脅かされたりしている。負の連鎖が世界のどこかでひずみを生み出していることに、思いを馳せることも、グローバル化の進む時代では大事になる。だからこそ、我々に出来る変革を進めることが大事になる。
例えば、再エネへの切り替えをしやすくするには、そのためのインフラの整備や、補助金の導入によって再エネをより身近なエネルギー源としていく政策が求められる。今回の調査結果は、意識の変化をもう一つ大きなシステム変化につなげるために、こうした政策や企業戦略の変革が必要だということを示唆している。人々の意識が高まっている今こそ、その意識をシステム変化へと向かわせていく「かじ取り」が求められている。
<監修者プロフィール>
蟹江 憲史 (かにえ のりちか)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表。
北九州市立大学助教授、東京工業大学大学院准教授を経て現職。
日本政府持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議構成員、内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員他、再生可能エネルギー会社である株式会社レノバ独立社外取締役を2017年から4年間就任。
専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。国連におけるSDGs策定に、構想段階から参画。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。
近著に「SDGs(Sustainable Development Goals)中公新書、2020」がある。独立科学者15人のメンバーとして国連事務総長に選任され、国連Global Sustainable Development Report(GSDR)の2023年版執筆を行った。博士(政策・メディア)。
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公開日:2024.09.05